どうぶつの心臓の話いろいろ

Vol.10【猫の心筋疾患の表現型のお話】2021.5.10.
心筋疾患の表現形は以前の分類がそのまま用いられています。
HCM:肥大型心筋症(の型)―HCM、HOCM、DHCM
RCM:拘束型心筋症(の型)―心内膜心筋型、心筋型
DCM:拡張型心筋症(の型)
ARVC:不整脈原性右室心筋症(の型)
UCM:分類不能心筋症(の型)
また先述の文献では、心筋症以外の除外すべき疾患についても記述がありました。
これによると心筋肥大を認めた後に末端肥大症や高血圧、TMT、甲状腺機能亢進症等を除外する必要があります。
また現在ケースレポート発表準備中ですが代謝性心筋疾患の症例や、心筋炎、寄生虫性、腫瘍等もわずかにあり、本来であればこれらを除外して初めて心筋症と言えるのですが、生前の生検はなかなか実施困難なことから難しいですね。
(しかも割合としてはかなり低いので実用性がわずか)
故にエコーによる形態診断に頼ることとなる(振り出しに戻る)。
犬では心筋生検のレポートもありますが、かなりおっかない内容ですw
猫でやるならやはり心カテか。。FNAでは組織構築まで見れないしなぁ。。
ぐるぐる回りながら次回はHCM(の表現型)のお話をしたいと思います。

Vol.9【猫の心筋症の基礎的なお話】2021.5.1.
猫の心筋症では肥大型心筋症と拘束型心筋症が多いとされておりますが、肥大型心筋症も拘束型心筋症も病理検査しない状況での生前診断のため、一般的には「推定※※型心筋症」となります。
その辺で以前から紋々としていたところで去年ACVIMからACVIM consensus statement guidelines for the classification, diagnosis, and management of cardiomyopathies in catsの発表がありました。
これが中々ツボをついている内容で、色々すっきりしました。
心筋症と断言しないで「猫の心筋疾患」で一まとめにして、肥大型心筋症の型・拘束型心筋症の型・拡張型心筋症の型等々の表現型で分類することと、犬のMMVD同様にステージ分類をして標準治療を設定したことが分かりやすくて良かったですね。
さてそんな猫の心筋症(心筋疾患)は、心不全徴候が出ないと中々ピックアップ出来ません。猫は散歩に行かないことが多く常に安静に近い状態ですので、運動不耐が表に出にくい動物です。また犬は弁膜症が多く、心雑音で早期発見出来ることが多いのですが、猫は心雑音があっても約1/3が治療対象になりません(心筋症だからといって心雑音が必ず出るわけではない)。テーマとしてこのような不顕性(無症状の)心筋症をどうピックアップするかですね。
当院では心筋トロポニンIを測定することにより不顕性心筋疾患をピックアップするという方法を採用しています。
この辺を話し始めるとまた長くなりますので別の機会にw
次回は各表現型についてお話したいと思います。


Vol.8【猫の心臓病の一般的なお話】2021.4.23.
猫の心臓病は圧倒的に心筋症が多いとされております。
先天性心奇形は犬に比較して少なく感じます。弁膜症はほとんど見ませんし、心内膜炎による弁閉鎖不全も稀ですね。不整脈疾患は基礎疾患がある症例が多いです。
猫のフィラリア症...手術した経験ありませんw
心膜疾患としては横隔膜心膜ヘルニアやリンパ腫があげられます。また続発性疾患としては甲状腺機能亢進症や末端肥大症、高血圧の猫で心筋肥大がみられます。
猫の心臓疾患で面白いのは、心雑音があっても一般的に1/3の症例の心機能は正常であるということ。もしかしたらもっと多いかもしれません。
心雑音が理由の紹介症例では、心筋症(ほとんどがHOCM)は半分以下に感じられます。心雑音保有猫における私の体感ですが、HOCM/DLVOTOが30%、機能性/無害性雑音が65%、先天性心疾患が5%といったところでしょうか?
次回は猫の心筋症の基礎的なお話をしたいと思います。

 

Vol.7【犬の不整脈のお話】2021.4.16.
犬の不整脈疾患はそれなりに遭遇します。
ちなみに正常犬は興奮していなければ心拍リズムはバラバラであることが普通です。
「ラテンの2-3のリズムだよ~」とは昔お世話になった先輩獣医師の談。
(まさか自分がラテンベースをこんなに演奏することになるとは当時考えもしなかったが)
そんな訳で犬は落ち着いていると呼吸によって心拍変動します。これを呼吸性不整脈(洞性不整脈)といいます。これはあって当然の不整脈で、逆になければ神経系の障害を疑います。
そもそも不整脈には治療が必要な不整脈と治療しなくて良い不整脈、治療してはいけない不整脈があります。不整脈治療には不整脈自体の治療も多いですが、神経的なものなど根本解決が必要なものもあります。ヒトと違いペースメーカー移植が困難で、カテーテルアブレーションの適応が少ない犬の不整脈の世界では、圧倒的にお薬によるコントロールが多くなります。そして抗不整脈薬は不整脈を誘発するリスクがあるため、使用は十分な診断をもって判断します。
僧帽弁閉鎖不全症の犬では心拍数が心臓の状態の鏡となることが多く、診察室での心拍数が200 bpmを超えると心臓の状況悪化を危惧します。また心房細動がある場合はかなりの左心房拡張を考えます。また心室性期外収縮や徐脈系不整脈が絡むと...と様々な展開があります。
循環器系が原因による失神とてんかん様発作の鑑別についてはまたの機会に。
次回は猫の心臓病の一般的なお話をしたいと思います。

 

Vol.6【犬の僧帽弁閉鎖不全症の外科的整復のお話】2021.4.9.
僧帽弁閉鎖不全症に関する治療では、内科治療はあくまで根本解決ではなく緩和治療となります。今回のガイドラインから外科的な治療介入に関して記載されるようになりました。
日本はこの分野で世界に先駆けて発展しています。名古屋の茶屋ヶ坂動物病院さん、神奈川のJasmineさんがこの業界では有名ですね。ここ数年では各大学の外科の方々も頑張っておられます(日獣大鈴木周二先生、お世話になっております)。
可能であれば外科的な介入を~とお勧めしますが、150万前後という費用と手術リスク、地域的な問題と敷居が高い模様です。
具体的には心停止下で左心房を開け僧帽弁の腱索を再建し、僧帽弁弁輪部を縫縮するという手技が多い模様です。
昔開心せず外から弁輪縫縮を行うインプラントとかも話題になりましたが、その後聞かなくなりました。人間で行われている僧帽弁クリップも犬ではまだまだ実用化が遠そうです。
個人的には動物の循環器外科の理想は血管外から対応出来る手技が理想と考えております。(ヒトと違い凝固系コントロールの問題があるので)
インプラントの実用化が待ち遠しいですね。
次回は犬の不整脈についてお話したいと思います。


Vol.5【犬の僧帽弁閉鎖不全症のステージBのお話】2021.4.2.
そもそもステージングって何のためにするかというと、予後の差の表現だったり治療の差のためだったりします。
大雑把なA:リスクある犬、B:心雑音あって心不全の経験がない犬、C:心不全の経験がある犬、D:標準治療に抵抗性な犬という分類に加えて、治療の差を表現するためには
各々を細分化する必要があります。
今回の分類はやはりEPIC studyというエビデンスレベルがそれなりに高い(信頼性が高い)論文に基づいてガイドラインが作成されたところが大きいと思われます。
すなわちピモベンダンの投薬により、明瞭な有益性が認められたという情報により分類しております。
既に色々なところで目にするようになりましたが、以下の4点を満たすとステージB2、僧帽弁逆流があるが4点を満たしていない場合はステージB1としています。
1. 心雑音≧3/6(論文内で明記していないがLevine分類と思われる)
2. VHS>10.5
3. LA/Ao≧1.6
4. LVIDDN≧1.7mm
そして問題となるのは、分類上B1だが心拡大による臨床徴候を認めるワンコ。。
次回は僧帽弁の外科的整復についてお話したいと思います。


Vol.4【犬の僧帽弁閉鎖不全症の臨床徴候と心不全徴候のお話】2021.3.26.
犬のMMVDステージングに重要なものとしてステージBの細分化のための情報がありますが、その前に犬の僧帽弁閉鎖不全症の臨床徴候と心不全徴候をお話しなければなりません。
僧帽弁閉鎖不全症によって初めて経験するであろう臨床徴候として「咳」が挙げられますが、これは心不全とイコールではないことが多いです。「心不全徴候」の定義はあくまで「心機能不全により引き起こされた臨床徴候」を指します。
具体的には「心機能に影響を与える心臓病により静脈圧が上昇し、肺もしくは体腔に液体が貯留すること」「もしくは心臓のポンプ機能が低下し、運動中もしくは安静時に体のニーズを満たすことが出来ない状態」を言います。
もっと分かりやすくすると、左心系なら肺水腫、右心系なら腹水/胸水、運動不耐や失神を意味します。肺水腫が原因でない咳は心不全徴候とは言わないんですね。
(※犬の話です)
心拡大により左肺気管支の下部からの圧迫により発生する咳、中高齢の小型犬で多く見られる気管支虚脱、慢性気管支炎などが咳として同時に表れてもステージCとは診断しません。
ステージングですごく重要な所ですね。なんせ利尿剤を胸張って使うかどうかの分かれ道なので。
次回はステージBの細分化についてお話したいと思います。

Vol.3【犬の僧帽弁閉鎖不全症のステージングのお話】2021.3.18.
僧帽弁閉鎖不全症の初診は咳、呼吸困難、運動不耐(疲れやすい、散歩を嫌がる)等が主訴の診察が多いとされますが、最近は圧倒的にワクチン等の健診時に心雑音が確認されるケースが多いです。時代ですね。
2019年発表のACVIM consensus guidelines for the diagnosis and treatment of myxomatous mitral valve disease in dogsのおかげで、犬の僧帽弁疾患における基本的な診断および治療選択が明瞭になったかと思います。
その中でまずは診断(ステージング)についてお話いたします。
診断ではまずは身体検査です。僧帽弁逆流は左側心尖部領域を最強点としたLevine3/6以上の収縮期逆流性雑音として聴取されます。聴診以外の身体検査を完了した後、一般的には血圧測定及び胸部X線検査、心電図検査、心エコー図検査と進みます。バイオマーカー測定は状況次第です。
ACVIMのガイドラインではMMVDをA~Dの4つのステージに分け、さらにステージBをB1とB2に細分しています。ステージAは現在僧帽弁逆流は無いがリスクがある犬、ステージBは僧帽弁逆流があるが心不全を経験していない犬、ステージCは心不全を現在発症している/もしくは経験したことがある犬、ステージDは難治性(治療抵抗性)の犬と定義されています。
次回は「心不全」の定義についてお話したいと思います。

 

Vol.2【犬の僧帽弁閉鎖不全症の疫学など】2021.3.11.
犬の僧帽弁閉鎖不全症(同義語:心臓弁膜症/僧帽弁逆流/僧帽弁粘液種様変性/MR/MMVD/MI等々)は中高齢の小型犬に多く発生します。
ちなみにアメリカでは体重20kg以下を小型犬と言うそうですw
発生原因は不明です。僧帽弁装置(弁尖および腱索)の変化を特徴とします。
雌雄差は雄:雌=1.5:1で一般的にゆっくり進行し、ほとんどの犬は心不全徴候発症の何年も前に心雑音が聴取されます。
キャバリア K.S.は比較的若齢で発症する傾向がありますが、心不全への進行は他の小型犬と同様と言われています。
弁構造が徐々に変形し、逆流が発生、心臓の仕事量が増加し、結果心筋のリモデリングにつながり、最終的には心室機能不全となります。
次回は僧帽弁閉鎖不全症のステージングについてお話したいと思います。


Vol.1【犬の心臓病の基礎的なお話】2021.3.4.
どうぶつの心臓の話いろいろ。犬と猫の心臓病を中心として色々情報を提供させていただければと存じます。基礎的なお話からスタートして、後半では希少症例について展開していきたいと思います。初回は犬の心臓病の基礎的なお話。
犬の心臓病では僧帽弁閉鎖不全症(同義語:心臓弁膜症/僧帽弁逆流/僧帽弁粘液種様変性/MR/MMVD/MI等々)を診断/治療することが圧倒的に多いです。フィラリア症は大分減りましたね。皆様の予防の賜物と考えられます。先天性心奇形では、個体流通の関連と思われますがPDAやPSをあまり見なくなりました。心筋症では大型犬が少ないことや選択繁殖の影響と思われますが、DCMやARVCを見なくなりました。小型犬のHCM、DCMも稀ですね。血圧や血栓関連では猫ほど沢山診断されませんが、クッシング症候群の高血圧や血栓症がしばしば問題になります。最近は心臓腫瘍および心臓関連腫瘍、肺高血圧症を診断/治療することが多くなってきています。特に推定血管肉腫が多いですね。次回は犬の僧帽弁閉鎖不全症についての疫学などをお話したいと思います。